SaaS(Software as a Service)ビジネスが主流となる現代において、企業の成長性や安定性を測るための指標は数多く存在します。その中でも、MRR(Monthly Recurring Revenue)、すなわち月次経常収益は、サブスクリプションモデルを基盤とするビジネスにとって最も重要なKPI(重要業績評価指標)の一つです。MRRを正しく理解し、追跡・分析することは、事業の健全性を把握し、将来の成長戦略を描く上で不可欠です。
この記事では、SaaSビジネスの根幹をなすMRRについて、その基本的な定義から具体的な計算方法、種類、そしてMRRを改善するための実践的なアクションプランまで、網羅的に解説します。スタートアップの経営者から、SaaS事業に携わるマーケター、営業担当者まで、すべての関係者がMRRを共通言語として活用し、ビジネスを成功に導くための羅針盤となることを目指します。
- 1MRR(月次経常収益)の基本的な定義とSaaSビジネスにおける重要性
- 2具体的な数値例を交えたMRRの計算方法
- 3New、Expansion、Churnなど、MRRの変動要因となる4つの種類
- 4ビジネスの成長健全性を示す「Net New MRR」の算出と分析方法
- 5MRRを継続的に改善していくための5つの具体的な戦略
MRR(月次経常収益)とは?SaaSビジネスの心臓部
MRRの定義と重要性
MRR(Monthly Recurring Revenue)とは、日本語で「月次経常収益」と訳され、毎月決まって得られる収益のことを指します。具体的には、サブスクリプションサービスの月額利用料や、複数月・年契約の料金を月割りした収益などが該当します。:::chart MRR構成要素の影響度(例:月間100万円のSaaS)
New MRR(新規獲得): 30万円
Expansion MRR(アップグレード): 15万円
Reactivation MRR(復帰): 5万円
Contraction MRR(ダウングレード): -8万円
Churn MRR(解約): -12万円
重要なのは、初期導入費用やコンサルティングフィーといった一時的な収益(非経常収益)はMRRには含まれないという点です。
SaaSビジネスにおいてMRRが重要視される理由は、その予測可能性にあります。MRRを把握することで、企業は将来の収益を高い精度で予測でき、安定した事業運営や計画的な投資(人材採用、マーケティング、製品開発など)を行うことが可能になります。投資家にとっても、MRRは企業の成長性と安定性を評価する上で極めて重要な指標となります。
ARR(年間経常収益)との違い
MRRとよく似た指標にARR(Annual Recurring Revenue)、すなわち「年間経常収益」があります。ARRは、MRRを単純に12倍することで算出され、年間ベースでの経常収益を示します。一般的に、顧客の契約期間が主に年単位であるB2Bのエンタープライズ向けSaaSではARRが、月単位の契約が多いB2Cや中小企業向けSaaSではMRRが重視される傾向にあります。
補足: MRRとARRは、どちらもビジネスの継続的な収益性を示す指標です。どちらを主要KPIとして用いるかは、自社のビジネスモデルや顧客の契約サイクルに応じて判断することが重要です。

MRRの計算方法を徹底解説
MRRの計算は、SaaSビジネスの状況を正確に把握するための第一歩です。ここでは、基本的な計算方法から、より実践的な計算例までを紹介します。
基本的なMRRの計算式
最もシンプルなMRRの計算方法は、顧客ごとの月額利用料をすべて合計するものです。
MRR = 全顧客の月額利用料の合計
また、顧客単価(ARPU: Average Revenue Per User)を用いて算出することも可能です。
MRR = ARPU(顧客単価) × 顧客数
例えば、ARPUが5,000円で、顧客数が100社いる場合、MRRは500,000円となります。
料金プラン別のMRR計算例
多くのSaaSでは、機能や利用規模に応じた複数の料金プランが提供されています。その場合のMRRは、各プランの収益を合算して算出します。
| プラン名 | 月額料金 | 契約顧客数 | プラン別MRR |
|---|---|---|---|
| ベーシック | ¥5,000 | 50社 | ¥250,000 |
| スタンダード | ¥15,000 | 30社 | ¥450,000 |
| エンタープライズ | ¥50,000 | 10社 | ¥500,000 |
| 合計 | 90社 | ¥1,200,000 |
この表のように、プランごとにMRRを分解して見ることで、どのプランが収益の柱になっているかを把握できます。
4種類のMRRを理解する
MRRは常に変動しています。その変動要因を理解するために、MRRは以下の4つの種類に分解して分析されます。これにより、ビジネスがどの側面で成長(または縮小)しているのかを詳細に把握できます。
New MRR(新規MRR)
その月に新たに獲得した顧客から得られるMRRです。これは、マーケティングや営業活動の成果を直接的に示す指標です。
Expansion MRR(拡大MRR)
既存顧客がより高額なプランへアップグレードしたり、追加機能を購入したりすることによって増加したMRRです。ネガティブチャーン(後述)を達成するための重要な要素であり、顧客満足度の高さや、製品の価値が顧客に認められていることを示します。
Downgrade MRR(縮小MRR)
既存顧客がより安価なプランへダウングレードしたことによって減少したMRRです。顧客のニーズと提供価値のミスマッチを示唆している可能性があります。
Churn MRR(解約MRR)
その月にサービスを解約した顧客によって失われたMRRです。Churn(チャーン)は解約を意味し、この数値が高い場合は製品やカスタマーサポートに問題がある可能性が考えられます。詳細は関連記事「チャーンレートとは?」もご参照ください。

Net New MRR(純新規MRR)でビジネスの成長を測る
前述の4つのMRRを組み合わせることで、特定の期間におけるMRRの純増減額であるNet New MRR(純新規MRR)を算出できます。これは、ビジネスの成長の勢いを測るための最も重要な指標の一つです。
Net New MRRの計算式
Net New MRR = New MRR + Expansion MRR - Downgrade MRR - Churn MRR
この数値がプラスであればビジネスは成長しており、マイナスであれば縮小していることを意味します。特に、Expansion MRRがChurn MRRを上回る状態、すなわち「ネガティブチャーン」を達成することは、SaaSビジネスの持続的な成長において非常に重要です。
MRRを改善するための5つの実践的アクション
MRRはただ眺めるだけの指標ではありません。分析を通じて課題を発見し、改善のアクションにつなげることが重要です。ここでは、MRRを向上させるための具体的な戦略を5つ紹介します。
1. 新規顧客獲得の強化
New MRRを増やすための最も直接的な方法です。コンテンツマーケティング、SEO、Web広告、セミナー開催など、ターゲット顧客に合わせたマーケティング施策を展開し、リード獲得と商談化を促進します。
2. アップセル・クロスセル戦略
Expansion MRRを最大化する戦略です。顧客の利用状況を分析し、より上位のプランや関連機能(クロスセル)を適切なタイミングで提案します。例えば、データストレージの使用量が上限に近づいた顧客に、上位プランを推奨するなどが考えられます。
3. 解約率(チャーンレート)の低減
Churn MRRを減らすことは、MRR改善において極めて重要です。質の高いオンボーディングプロセスの提供、定期的な活用支援、優れたカスタマーサポート体制の構築などを通じて、顧客が製品価値を最大限に実感できるように支援します。
4. 料金プランの最適化
顧客が支払う価値と価格のバランスを見直します。機能ベース、利用量ベース、ユーザー数ベースなど、提供価値が最も伝わりやすい価格設定を検討します。A/Bテストなどを通じて、最適な料金体系を模索することも有効です。詳しくは「インディーSaaSの価格設定戦略」でも解説しています。
5. 顧客エンゲージメントの向上
顧客が製品を積極的に利用するほど、解約率は低下し、アップセルの機会が増加します。定期的なニュースレターの配信、ユーザーコミュニティの運営、新機能の活用ウェビナーなどを通じて、顧客との関係性を強化し、エンゲージメントを高めます。
"顧客の成功こそが、我々の成功である。"
これは多くの成功したSaaS企業が掲げる理念です。顧客があなたの製品を使ってビジネスを成功させることが、結果としてExpansion MRRの増加とChurn MRRの減少につながり、持続的な成長を実現します。

MRRの活用事例
MRRは、日々の業績管理だけでなく、より大きな経営判断においても活用されます。
スタートアップの資金調達におけるMRR
スタートアップ、特にSaaS企業にとって、MRRの成長率は資金調達の際に投資家が最も注目するポイントの一つです。安定したMRRの伸びは、ビジネスモデルの有効性と市場からの支持を証明する強力な材料となります。
事業計画や予算策定への活用
MRRの推移とNet New MRRの分析に基づき、将来の収益を予測し、現実的な事業計画やマーケティング・開発予算を策定することができます。例えば、HubSpotのような大手SaaS企業は、四半期ごとにMRRを含む詳細な業績を公開し、事業の透明性を確保しています。
CRM・マーケティング・セールスを統合するビジネスプラットフォーム。日本語対応。
hubspot.jpMRRは「今月の健康状態」、ARRは「年間の体力」を表す指標です。日々のオペレーション改善にはMRR、資金調達や事業計画にはARRを使い分けましょう。
SaaSビジネスの全体像を理解するには、「SaaSとは何か?」の記事も合わせてお読みいただくことをお勧めします。
## まとめ:MRRをビジネス成長のエンジンに MRRは、単なる売上指標ではなく、SaaSビジネスの健全性、成長性、そして将来性を映し出す鏡です。本記事で解説したMRRの計算方法、4つの種類、そして改善策を理解し、自社のビジネスに適用することで、データに基づいた的確な意思決定が可能になります。 日々のMRRの変動を注意深く追い、その背景にある要因を分析し、改善のためのアクションを継続的に実行していくこと。それこそが、競争の激しいSaaS市場で持続的な成長を遂げるための鍵となるでしょう。まずは、自社のMRRを正確に算出することから始めてみてください。 SaaS起業の具体的なステップに興味がある方は、こちらの「[月10万円を稼ぐマイクロSaaS開発ロードマップ](/blog/micro-saas-100k-roadmap)」もぜひご覧ください。
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